元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 男とは思えない細い指となめらかな肌。爪はやや長めで、先が少し鋭い。こうして触れてみても、人間以外の生き物には感じられない。

「あまり触れないでほしい」

「先に触ってきたのはあなたでしょう」

 もう、ティアリーゼの中に遠慮の文字はなかった。

 この人はこれまでの常識が通じるような相手ではない。命を奪おうとしない態度もあり、下手におとなしくする理由が見つからなかった。

「それはお前が人間だからだと思う」

「答えになってないわ」

「そうだろうか」

(……あら)

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