元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 このまま顎に力を入れてしまえばティアリーゼは顔の半分をなくすことになるが、起きていてもシュクルの甘噛みを拒むことはない。

 だから寝ている今、遠慮なくはむはむさせてもらう。

 シュクルはティアリーゼのこの柔らかさが好きだった。

 竜の一族の中で弱く生まれたシュクルは鋼も通さぬ硬い鱗を持たない。そんな自分を柔らかく、弱く、不出来な生き物であると思い続けてきた。

 しかし、ティアリーゼはそんなシュクルよりも柔らかくて弱い。そして、ひどく脆い。

 どうしてもティアリーゼとの子を残したくて襲い掛かったとき、大して力も入れていないのに、簡単に組み敷けたことが驚きだった。

< 447 / 484 >

この作品をシェア

pagetop