元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 必死に抵抗し、逃げ出そうとするティアリーゼを見て面白く思ったものだ。

 この程度で自分を殺そうと思っていたのか、と。

 人間は弱いと知っていたが、さすがにそこまでとは思わなかった。だからシュクルはとても優しく、気を付けてティアリーゼに触れる。

 眠っている間に潰してしまわないよう、慎重に。

 最初は触れたくても触れるのが恐ろしかった。

 シュクルの爪は簡単にティアリーゼを裂くだろう。噛み付けば骨ごと断ち切れてしまう。柔らかい腹を蹴れば、口から内臓が出るかもしれない。踏めば恐らく砕けて潰れ、喉奥から炎を吐けば一瞬で炭と変わる――。

 ふるり、とシュクルは身を震わせた。

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