元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 ティアリーゼを失うのが怖かった。ずっと誰にも求められず、触れてさえもらえなかったシュクルが初めて手に入れたぬくもり。

 人間をたやすく滅ぼす力を持っていると知ってなお、逃げようとしない優しくて愚かなヒト。



(……永遠にこうしていられればいい)



 すん、とシュクルは鼻を鳴らしてティアリーゼの香りを堪能する。

 人間特有の独特な香りは、ときにシュクルの胸をざわつかせた。

 どうしようもなくティアリーゼが欲しくなって、興奮する。

 それをシュクルは発情と呼んだが、ティアリーゼはそういう言葉を使ってほしくないらしい。

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