元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 そんなティアリーゼの顔を見ると、シュクルの頬はいつも柔らかくなった。

 いつか溶けて落ちてしまうのではないかとこっそり心配しているが、本来はこういうものだと言う。



「嬉しそうね、シュクル。いつもよりいい笑顔をしているわ」

「お前が私を好きだと言ったから」



 本当に朝からいい思いをしたのはシュクルの方だった。

 目を覚ましてから一時間も経っていないのに、もう、一日分の幸せを味わっている。

 しかし、これが白蜥の魔王夫妻のいつもの朝である。

 側に仕える使用人たちが「微笑ましい人たちだ」と思っていることも知らず、シュクルはティアリーゼがいる喜びを噛み締めて、小さく鳴き声を上げたのだった。
< 464 / 484 >

この作品をシェア

pagetop