元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 思い出したくないというわけではなかった。その記憶が辛く悲しいことだというわけでもない。

 だが、シュクルはティアリーゼのことを知っている。生まれ育った国、そして家族たち。すべてを捨てたからこそ、ここにいる。



「……よかったら聞いてくれる? 私が初めてこれを食べたときのこと」

「構わない。私はお前の声を聞くのが好きだ」



 無表情のまま、尻尾だけをぱたぱた振ったシュクルが言う。

 そしティアリーゼは話し始めた。

 もう二度と戻ることのない、遠い遠い昔の話を――。



 ティアリーゼは幼少の頃から姫としての扱いを受けてこなかった。

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