元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「じゃあ、どうしたらいいの?」

「なにもしなくていいんです。淑女というものは、声を上げる上げない以前に、物事に動じないんですよ」

「よくわかんない……」



 困った顔をしたが、もう心は菓子に夢中だった。



「ね、これ食べていいの?」

「この間教えたお作法通りに食べられるのなら構いませんよ。ひとくちで食べられるものだからといって、一気に全部食べてしまわないようにしてくださいね」

「はあい」



 返事をして、なるべく淑女らしくというのを心掛けながら菓子を手に取る。

 まだ温かいのはこれが焼き立てだからなのだろう。

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