元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 この黒いものがなんなのか、判断するのに時間がかかったのだろう。



「これは食べてもよいものなのか」

「食べられないものは渡さないわよ。ちゃんと甘くないように作ったから……口に合うといいんだけど」

「ふむ」



 やはりシュクルはティアリーゼに聞くことなく、焼き菓子を口に運んだ。

 かり、と香ばしい音が響く。

 そして、さくさくという小気味いい音も。



「おいしい?」

「食べられないものではない、と思う」

「だから食べられるものだって言ってるじゃない」

「あまり信じていなかった。これは食べ物に見えないから」

「……確かに自然界じゃ見ないものかもしれないわね」

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