元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 今もシュクルは窓の外を舞う蝶に気を取られ、目で追いかけている。まるで猫のようだ。

「どうしたいとは」

「私がどうしてここに来たのか、忘れたわけじゃないわよね?」

「その理由は消えたはずだ。お前は人間に裏切られた」

 率直な物言いにティアリーゼの胸がつきりと痛む。

 そう、自分は裏切られたのだ。

 勇者とは名ばかり。甘言で育てられた姫は、なんの疑問もなく魔王のもとへ送られた。人間のために、供物として。

(私を捧げるからタルツの繁栄を、と言っていた)

 だったら最初からこんな育て方をしなければよかったのに、と苦い思いに満たされる。

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