元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 あれきり、勝手に部屋に入ってきたり、ベッドに潜り込もうとしたり、なにかと付きまとってくる以外にそれらしい素振りを見せなかったが、どうやら本気だったようだ。

 額を押さえたまま、ティアリーゼは言葉を選ぶ。彼は人間ではない。同じ生き物ではないから、伝えたいことも伝わらないことがある。

「私、あなたにそんなことを言われる覚えはないわよ」

「私に触れた」

「それだけで求婚するのはどうかと思う」

 至極真っ当な返しだと、誰もが言うはずだ。告げられたシュクル以外は、の話だが。

「わからない」

「ああ、もう」

 人間には到底理解が及ばない。匙を投げだしたい気分だった。

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