元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 そう言って、シュクルは勝手にティアリーゼの膝に頭を乗せようとした。さっと足をどけたことで、一方的な膝枕は失敗に終わる。

 残念ながらシーツに転がる羽目になったものの、シュクルは懲りた様子もなく再びすり寄った。

「まあ、確かにトカゲより猫に近いかもしれないわ」

(だからどうも憎めないのよね)

 ティアリーゼの敵で、人間の敵だったはずの魔王。それがこんなにも気の抜けるトカゲだと誰が知っていただろうか。

(本当にどうしようかしら)

 結局、この日も今後どうするべきかは決まらなかった。自身の望みさえわからないまま、また日々を過ごすことになる。



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