元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 ふう、と吐いた息の音は、思いがけず大きく響いた。

 運命は彼女に大きな役目を課しておきながら、肝心のその瞬間をいつになっても与えてくれない。

(このまま日々を過ごすだけでいいの?)

 耳にするのは魔王が統べる、人ならざる存在――亜人たちによる許しがたい行為。

 狂暴な獣の一面を持つ亜人たちは、ときおり人を襲い、村々を襲った。甚大な被害になることも少なくはなく、ティアリーゼの父親であるタルツ王も頭を悩ませている。

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