元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 こんなふうに亜人に苦しめられているのはタルツだけではない。レセントに存在するすべての国が、そしてすべての人が、亜人たちによってつらい日々を強制されている。幸か不幸かその場を目にしたことはないが、少なくともそのように耳にしていた。

 今、この瞬間にもつらい思いに喘ぎ嘆く人々がいる。

 もどかしい思いを逸らすように、立てかけてある剣を手に取った。

「今日も付き合ってくれるわね」

「承知いたしました」

 『勇者』としての教養を叩き込まれ、そして剣の腕を鍛える。姫として生まれながらその生き方を許されないティアリーゼの、いつもと変わらない一日が始まろうとしていた。



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