元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 話は通じないし、いきなり求婚してくるし、ティアリーゼに対してまったく遠慮をしない。そんな人なのにきちんと王としての責務をこなしているのは少し不思議な気持ちがした。

 結局、邪魔をするのは悪いだろうと考えて声をかけにいくのはやめる。

 またメルチゥか、あるいはほかの誰かに会えればいい。

 そう思いながらティアリーゼは部屋を出て行った。

 しかし、ティアリーゼの目的は叶わなかった。

 一応外には出られている。と言っても、城の庭だが。

 晴れた空の眩しさは目に痛いくらいで、吹き抜ける風も心地良い。タルツにはなかった草花や、見たことのない鳥に目を奪われることも何度かあった。

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