元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 が、ティアリーゼはその場を動けない。

 噴水の縁に腰を下ろしたまではよかった。

 どこでティアリーゼのことを聞きつけたのか、シュクルが現れたのが運の尽きである。

「……お仕事はいいの?」

「いらない」

 部屋では何度も避けられ続けてきた膝枕をついに果たし、シュクルは非常にご機嫌だった。

 ゆらゆらと揺れる尻尾がときおりティアリーゼの手を叩く。

「こういうの、あんまり城の人に見られていいものじゃないと思うの。王としての威信に関わったりしない?」

「わからない」

(またそれ……)

「たとえ疎んだとして、レセントの王は私以外にならない」

 そう言ってシュクルは目を閉じる。

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