だけど本当は、きみが最初で最後の恋


口ごもるあたしの頭を小突いてくる。


「不器用なんだか、器用なんだか」

「いつもお世話になってます……」

「今まで一度も世話なんかした覚えないよ」


いやいやいや、それはない。お世話されっぱなしだよ。弥生には頭が上がらないし足を向けて寝られないっていつも思ってるし、ありがとうの気持ちでいっぱいなの。恥ずかしくて言えないけど…。



「してないって。世話なんかしたら、とーかは成咲のものになっちゃうからね」


「成咲のものになんて ───」



…あれ。今、ものすごい意味を含んでいるようなことを言われた気がする。

そう思っていたら、無意識に俯いていたらしい顔をぐっと上げられる。広い両手に包まれた頬があたたかくて、どこを見たら良いかわからない視界が宙を泳ぐ。



「弥生、あの…、」


あたしには不釣り合いの、真っ直ぐな目。


「これからも自分の気持ちに素直になる気がないなら、俺を選べよ、とーか」


もったいないくらいの言葉。


このまま頷いたら、きっとうれしいんだろうなあ。

毎日弥生が傍にいて、時々いじわるを言われて、あたしは素直に落ち込めて、その度に甘やかしてもらえる…そういうの、うれしくて、楽しくて、安心できて、癒されて、寿命なんか縮まらなくて、怒ることもなくて、言葉遣いだって良くなれるかもしれない。


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