だけど本当は、きみが最初で最後の恋


ああ、弥生と幼なじみでよかったって。

自然と笑顔になれる、尊敬できて、認められて、一緒に大人になっていく、易しい時間。弥生となら過ごせるんだろう。ぜったい、絶対にそうなんだろう。


──── だけど。


「…っ、ごめ……」


思わず泣いてしまった。泣いて、ごめん。

頬を包む手のちからが緩んで、あたしはそこから、抜け出して。もう一度って頬に添えてもらうことは、できない。


「ごめん、弥生のことは、とても大事だけど…」


タイプだし、弥生の好きなところを数えたら、もういっぱい出てきて最初に言ったことからわすれちゃいそう。

それでも。



「ほかに、好きなひとがいる」


「…うん」

「う……うれしかった。初めて誰かに好きって、言ってもらった。それが弥生だなんて、光栄すぎて……ありがとう、ほんとうに、ありがとう」

「うん」


涙をぬぐってくれる、甘い指。

だけどこんな時に思い出すのは、雑な言い合い。
隠していた気持ちが表に出た。

もう嘘をつきたくないと、溢れるように。


「とーか、俺のことちゃんと考えてくれて、ありがとう」


本当はたくさん考えてたよ。
大事だから、たくさん考えてた。

弥生のこと、今までにないくらいたくさん。そうしたら大好きだなって思った。


だけどそれは言えないね。

きっとわかってくれるだろうから、言わなくていいか。


ありがとう、弥生。

今だって、いつまでも言い逃れようとするあたしのこと、呆れてお世話をやいてくれたんじゃないかな。


< 139 / 169 >

この作品をシェア

pagetop