だけど本当は、きみが最初で最後の恋


そう思ってしゃがみ込んだはいいものの、頭が動いてくれない。手を見るとカタカタと震えていて、どうしようもないな、と思う。


──── あの男かもしれない。


なんて、馬鹿みたいなことを考えてしまう。



あたしは強い。

悪い人を前にして大きな声も出せるし、ひとりぼっちの子は放っておけないし、友達が少なくても大丈夫だし、傷のことを聞かれたってなんてことない。友達が危ない目に遭っていたら間に入って助けたいって思う。


それなのに、不審者って聞いただけで、こんなに手が震える。


不注意で飲み物を落としてこぼしたなら早く片づけなきゃ。

そう思うのに、どうやって片づけたらいいかわからなくなる。


ぎゅうっと目をつぶる。


成咲に向かって振り下ろされる腕。鋭い刃物。切られたところが悪かったらもっと重症だったかもしれない。守りたいって思ったのは本当だよ。そうしてよかったってちゃんと思ってる。だけど。


こわい。


また痛いことをされたらと考えただけで…思考も行動も何もかも奪われる。

これだから心配されてばかりなんだ。


「橙花」


コドモ、なんてとても言えない手のひらが背中をさする。


「もし何かあっても、なくても、おれが守るからこわくない」

「……うそ」

「嘘じゃない。ずっとそうしてきたろ」


でも、離れ離れになるし、好きなひとだっているんでしょ。

約束だったから傍にいてくれただけでしょ。


だってそうじゃなきゃ、きらいなあたしの近くにずっといたの、おかしいもん。


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