だけど本当は、きみが最初で最後の恋



「いつもふたりは浴衣着てる?けっこう大きいお祭りだもんね。時期は7月中旬って他のお祭りより早いけど……とーかちゃん?」

「っ、あ、ごめん、ぼんやりしちゃった」

「あ、うち重い?大変?」


その言葉にぶんぶん首を横に振る。重くなんかない。あたしより背小さいし。


夏祭り。不審者。

今日はあの日を思い出すワードとよく出会う。


「えこちゃんは、オレンジとか黄色の浴衣が似合いそうだね」

「よく言われる!今年は新調したいと思ってるから、もしよかったら遊ぶときに一緒に選んでもらいたいなー。とーかちゃんがおしゃれなのは遊園地で把握済みですっ」


きりっと敬礼するお茶目な姿に笑みを返す。あんな一瞬でおしゃれだって思ってもらえてうれしいな。アイツには反応もらえなかったからね。根に持ってるよ。


成咲もこの会話聞こえてるはず。


…あれ以来お祭りには行ってない。

成咲もあたしも。


毎年花火が上がる音を部屋で聴きながら、成咲が思い出していなきゃいいなとか、危険な目に遭ってる子がいなきゃいいなとか、そういうことを考える日。

その日の帰り道はお通夜みたいになって居心地がわるくて、早くあんな日のことはわすれてしまいたいと強く願った。


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