だけど本当は、きみが最初で最後の恋




夏休み1週間目。姫春も誘ってえこちゃんと3人でお出かけに来ました!

SNSで見つけたおしゃれなカフェに行っていろんな話をして、パンケーキも食べて、洋服やアクセサリーを見て、今度は海鮮丼を食べて、今は浴衣を見に来てる。


浴衣買わないの?と聞かれ、毎年行ってないことを話すとびっくりされた。


「え!どうして?この地域に住んでる人以外も来るような大きなお祭りなのに」

「うーん。かくかくしかじか……」

「…え、なに、それ……」


あの事件の話を誰かにするのは本当に久しぶりだった。

せっかく浴衣を選びに来たのにごめんね。水を差してしまうような話だったんじゃないか…と不安に思ってると両肩を掴まれた。


「それは、ひどい話だ。こわい思いをしたんだね」


ぎゅっと抱きしめてくれる。なんて幸せな時間なんだ…もうこれだけで話してよかったって思える。というのはさすがに冗談だけど。


「でも、いつまでもふたりで囚われてたらもったいないよ。不安でこわいだろうけど…でも、ふたりで行くなら、こわくないんじゃないかな」

「……」

「このままふたりともその「あの事件」から上書きできずにくるしみ続けちゃうのはやっぱりもったいないんじゃないかなあ…つらいんじゃないかなあって思っちゃって。わかったようなこと言ってごめんね」

「あ…そんなふうには思ってないよ。えこちゃん、ありがとう」


でもやっぱり、あのお祭りに行くのは気が引けちゃう。

けっきょくえこちゃんの金魚と鞠が描かれた淡い黄色の浴衣だけを選んで、またの約束をして別れた。

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