だけど本当は、きみが最初で最後の恋


「バイクあるから乗れよ」

「あ、うん。初ジョンゴだ」


ジョンゴは乗りやすくて、1代目より快適だった。でも1代目の時にひょいって乗せてくれたのもよかったなあって、思ってしまったよ。でも乗り心地はぜったいジョンゴ良し。

あっという間に我が家に着いてしまった。


「みんなで浴衣買ったの?」

「あ、うん」

「…そ」


買ったよ。可愛いって気に入ったものを買えたよ。


「行けそうなのかよ」

「え、」

「祭り」


こわくないのかって聞いてるんだと思う。


こわいって思う。こわいというか、不安だなって。何があるとは思っていないけど、もしかしたら何かあるかもしれない。

それほどまでにあの出来事は唐突で、恐しくて、脳裏から離れないままふとした瞬間一番最初の記憶みたいに思い出してしまう。


だけど、姫春とえこちゃんの言う通りだ。

本当は自分でもわかってた。


「…行きたいって思った」

「ふうん」


この浴衣を着て屋台を楽しんで、弥生や姫春、えこちゃんとばったり会ったら写真を撮って、あの日見れなかった花火を見て、その隣には成咲がいてほしい。



「一緒に行かない…?」


背中、押されたんだと思う。じゃなきゃ言えなかった。


「おー。楽しみだな」

「…おー」

「18時に迎えに来るから」

「うん」


断られなくてよかった。


「おやすみ」

「…おやすみ」


そのあいさつは初めて使ったような気がする。

緊張する。

でもさっきの願望に近い想像はその緊張を和らげてくれると思う。


成咲と一緒に、花火を見る。

やっと見れる。


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