だけど本当は、きみが最初で最後の恋


可愛いところ、変わらない。


「なに照れてんの、調子にのらないでくれる?」


ああバカ。あたしもぜんぜん変われない。


「……橙花も、似合ってる」


取って付けたように言われたってうれしくないし!って、可愛くないことも思ってしまう。


「もう、いいから行こうよ」

「うん。混んでるだろうけど傍離れんなよ」

「わかってるもん」


もちろん成咲が心配してくれているのもわかってる。 ひとりになるのはあたしだってこわい。 だけどそれはもしかしたら成咲もなのかもしれない。

近づくにつれて緊張して会話が少なくなってく。

でもけんかするよりマシなのかも。


「とーか、平気?」

「…うん」

「嘘つくなよ」

「ウソ、ではないけど…」


人も多くなって、騒がしくなって、あの日と同じ光景。


「…あの日、成咲とけんかしなきゃよかった」


くだらないことでわざとじゃない言い合いして、あんな目に遭わせて。傷を負ったのがあたしだったから、自分を責めさせて。

あんなことになるなら。


──── 後悔なんてとっくにしてる。


「ん」

「、なに」


紺色の生地の裾をひらひらさせてる。


「……はぐれても困るから掴めば」


そんな照れて赤くなりながら、言いたくないことを必死になって口に出してるみたいな言い方、癪なんだけど。

でも、断りたいわけじゃない。


「べつに、いいけど」


そう言いながらおそるおそる手を伸ばす。掴めばって、なんだかなあ。不器用だ。


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