だけど本当は、きみが最初で最後の恋
「成くん、いつもお迎えありがとうね。今日も橙花ちゃんをよろしくね」
ママの声が背後から聞こえてきたからか成咲の背筋がピンと張る。何年も猫かぶってんじゃねーよ。
「もちろん任せてください葉子さん」
「キャッ!成くんって本当に小さい頃から王子様みたーい、ね?橙花ちゃん」
「王子様?……フッ」
アーハイハイ、茶番茶番。
王子様なんて小さい頃から今に至るまでの間で出会ったことはありません。こんなやつのお迎えを遮って早く迎えにきてほしいくらいだ。
ママとふたりで暮らすアパートを出て不本意ながら成咲と学校までの道を歩いていく。いつもと変わらないつまらなすぎる朝。
「とーか、さっきの鼻笑いなんだよバカにしてんのか」
別称、めんどくさすぎる朝。
なんでこんな朝イチでため息つかなきゃならないんだよ。毎日積み重ねてきたおかげで幸せがやってくる気配がまったくない。
コイツのせいで……と横をじろりと見上げると見下ろされた。
エ、むかつく。足を蹴ったらだるま落としのようになれば何回でも蹴り飛ばすのに!
「バカなんだからバカにして当然でしょ。あとこっち見ないでくれる?」
「はあ?なんで!」
「バカに見られたくないの。それくらい察して」
さっきママにしていたみたいにあたしにも猫かぶってくれたらいいのに。「さっきの鼻笑い、かわいかったよ」とか?
うえっ。それはそれで気色わるいな。考えただけで寒気がして身震いまでしてきた。不快。