だけど本当は、きみが最初で最後の恋
「いやいやいや、でも、」
「そこにいるの、彼氏じゃないんでしょ?彼氏いないって聞いてる」
「えっと、」
「今度姫春ちゃんたちについてってダブルデートでもしようよ。もっと仲良くなろ」
にこっと完璧な笑顔がこっちを向く。高い背を屈ませて覗かれるのは、顔なのか、べつのところなのか、わからなくなる。
やばい、浮かれそう、かもしれない…?
成咲の言う通りにはなりたくないんだけど、だって、こういうのは初めてで。
目に見えそうなくらいの、悪意ではない好意。これはうれしいかもしれない。
そう思って頷こうとしたら後ろから腕がまわって引き寄せられた。
「コイツは他の男と仲良くしねーから」
……あたしの幼なじみはどうしてこう、自分勝手なんだ?
「なんでアンタが返事するんだよ」
まわされた腕をすぐに振りほどいて、幼い頃と変わらずふにゃふにゃする頬を両手でつぶす。あーあ咲乃さんたちのおかげで整ったお顔がだいなしですねえ。
「浮かれんなっつーの」
「うるさい、邪魔すんなバカ」
「バカはオマエだよバカ」
ああいえばこういう。拉致のあかない闘いは、毎日繰り広げても飽きることなく続く。
めんどくさくて、だるくて、どうしようもないって頭ではわかっているんだけど、どうしてかな。
あたしたちはいつもこうだ。
きっとこれからもこうなんだろう。
「「大っきらいだ」」
リオと三笠さんみたいに関係が変わったりしない。変えたいと思えない。だからあのキスに理由なんてない。
物語の選ばれたようなふたりにはなれない。