見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
掃除機をその場に置いて、ローチェストの引き出しの中からリングケースを両手で取り出す。
和哉さんにもらった指輪はまだ箱にしまったまま。
和哉さんは好きだけれど、結婚すれば八木沢家の一員になる訳で、義両親とも関わり合わないといけない。
和哉さんの結婚相手として認めてもらえなかったあの過去は、私の中でしこりとなって残っていて、正直また同じような扱いをされるのではと歩み寄るのが怖いのだ。
和哉さんとちゃんと家族の形を取りたいなら、このままじゃないけないとわかっているのに、トラウマにどこまでも足を引っ張られる。
小さくため息を吐いた時、スマホが鳴った。
羽織っていた上着のポケットからスマホを取り出し、和哉さんからの電話を不思議に思いながら受けた。
「こんな時間にどうしたの?」
時刻は午前九時。今日は平日なため、和哉さんはそろそろ仕事を始める時間のはず。
「体調悪くて休んだ」
「ちょっ、大丈夫? 病院は行った?」
「あ、悪い。体調が悪いふりして休んだ。ズル休みだ」
「……はい?」
仕事大好きな彼とズル休みという言葉が嚙み合わなくて、しばし言葉を失う。