見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
「結衣さん、ごめんなさいね。和哉を、それを受け入れてしまった私たち夫婦のことも、どうか心ゆくまで恨んでちょうだい。勝手な言い草だけど、私はあなたが新しい道を見つけて、幸せになることを願っているわ」
言葉を返せぬままテーブルに視線を落とす。
コーヒーふたつはすっかり冷めてしまったようで、もう湯気は出ていなかった。
新しい道どころか、どこに向かって歩けば良いかすら分からないまま二週間が経ち、そして迎えた休日。
朝から鳴り響くインターフォンに、気だるく反応する。
「あらやだ。なんて顔しているのよ」
玄関のドアを開けて家の中へと迎え入れた母から開口一番飛び出したセリフに、私は眉根を寄せた。
「何か用?」
「昨夜の電話での声がおかしかったら、様子を見に来ただけよ」
思わず悪態をついてしまったが、当たり前のように返ってきた言葉に、私は小さく息をつく。
「……そっか。ありがとう」
和哉さんを忘れなくちゃと思うのに、心はなかなか思うようにいかず、無気力な状態が続いてしまっている。
「ちゃんとご飯を食べているの?」