見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
買い物袋を下げたままキッチンに直行した母にそう問われ、私は「……うん、まぁ」と曖昧に返事をし、小さな丸テーブルの前にぺたりと座る。
食欲が湧かず、あまり食べていない状態だとは言いずらい。正直に言えば、「何かあったの?」と絶対に聞かれるからだ。
和哉さんのことはまだ心の整理がつきそうにない。
「お茶でも飲む?」と、母がテーブルにペットボトルを置いた。
「ありがとう」と手を伸ばした時、母が私の傍に膝をつき、再び問いかけてくる。
「ねぇ、結衣。和哉くんと喧嘩でもしたの?」
伸ばした手を止めて、思わず母へと顔を向ける。言いたくない。
けど、私にお付き合いしている男性がいると知っている母に、いつまでも黙ってはいられないだろう。
「実はさ、和哉さんと……別れたの」
震える声で彼と別れたと言葉にした瞬間、もう枯れたと思っていた涙が溢れだす。
「……あぁ、そうだったの。辛かったわね」
母に抱き寄せられ、子供のようにしがみつく。声を上げて、泣いた。
ひとしきり泣いた後、「さてと、いくつか作り置きしといてあげましょうか」と、母が立ち上がった。
私はぐすりと鼻を鳴らしながら「お願いします」と呟き、テレビのリモコンへと手を伸ばす。