見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
私もその隣に並んで歩きながら、「もう」とため息交じりに呟く。
圭人は甥っ子が可愛くて甘やかすし、勇哉も勇哉で圭人に甘えたがり、その様子に私は思うところがある。
「ハタノさん、こんにちは」と前方から声をかけられ顔を向けると、ご近所に住む夫婦がいて、ゆるりと頭を下げてきた。
よく店に買いに来てくれているお客様でもあるため、私と圭人はわずかに足を止めて笑顔で挨拶を返す。
ご夫婦の間には、勇哉と同じ二歳児の女の子がいて、両手でボールを抱え持っている。
女の子は勇哉にちょっぴり笑いかけてから、お父さんに向かってボールを投げた。しかしボールは上手く飛ばなかった上に、コロコロとあらぬ方向へ。
「どっちに投げてるんだ」と楽しげに、お父さんがボールを追いかけていく。その姿に女の子も「パパ!」と声を上げて笑った。
笑い声が飛び交う中、私は圭人に抱っこされている勇哉を見上げて、思わず息をのむ。
勇哉は少し寂しげにその光景を見つめていて、圭人を掴む手にわずかに力が入ったのを見て取る。
視線の先にいるのは女の子の父親で、なぜ自分には父親がいないのかと思っているのではと想像し、申し訳なさに胸が苦しくなっていく。