君じゃなきゃ。


会社の玄関ホールまで来るとエレベーターの上ボタンを押してしばしの沈黙。

機械音と共にエレベーターが到着。


乗り込むと健人が階数のボタンを押してくれた。



「19階と23階っと。もうちょっと企画課の階が上だったらな~……」


「何言ってんの。あたしはもう少し下の階でもいいくらいよ」



19階は企画課、23階が営業課になる。


なんでこんなに健人が階数を言うかというと……健人にとって重要らしい、朝のお約束があるから。



「さくら……」



健人はエレベーターの扉が閉まるのを確認すると声を甘く変えた。


囁きながらあたしを壁際まで押し寄せる。


左手はあたしの手をギュッと握り、右手でソッとあたしの頬に触れてくる。


あたしをジッと見詰めながら頬に添えていた手をずらし、親指で優しく唇をなぞった。



「もっ……健人……」



子犬のように甘えた顔。


なのに奥に熱を持った瞳……。



そんな健人に見つめられると……毎度のことながら目をそらしてしまう。
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