君じゃなきゃ。


駅に着くとさっきよりも人が少なくなっていた。


改札を通る前にしっかり定期を手に握り、先輩に挨拶をした。

「じゃぁここで。お疲れ様でした」

ぺこりと会釈をして改札を抜けると、先輩も一緒の改札を抜けてきた。


「あれ……先輩?」


同じ方向だったっけ?



戸惑うようにあたしが聞くと

「家まで送るよ」

と、有無を聞かずに言ってくる。


「え……でも!」

そうはいかない。

わざわざあたしが飲みだということを気にかけて、自分だけ残業してくれたのに、そのうえ送ってもらうだなんて!


断ろうとしたとき、目の前の電車が発車の合図を響かせた。


「あっ!あの電車でしょ?!出ちゃう!」


先輩が電車に向かって走り出す。




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