羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。【番外編 2021.5.9 UP】
起きるのは朝5時半。ボロボロの我が家の窓から差し込む光は狂暴なほど明るい。
素早く着替えて部屋を出るとぎしぎし鳴る廊下の先に、リビングという名の和室がある。
リビングに入ってキッチンの方に目をやると、その巨体に似つかわしくない花柄のエプロンをした父の姿があった。
「おはよ~、みゆ」
最後にハートマークがついていそうな父の声に、私は眉を寄せる。父は鼻歌交じり(なぜかYOASOBIだ)に卵焼きを焼いていた。
「しょっぱいやつにしてよ」
「はいは~い」
そう言いながら作る父の卵焼きは、いつもちょっとだけ甘い。
文句を言っても、いつも『みゆへの大きな愛情のせいかな』と、しょうもない返しが返ってくるだけだ。
私は父の後ろで、いつも通りセットしていた炊飯器の白米を二人分茶碗につぐ。
「パパの分は少なめにして」
「体力勝負なんだしもっと食べなよ。少なめって、うちの女子社員じゃあるまいし」
「でもぉ~」
でもぉ~、じゃない。
父は『刑事』という仕事柄、現場ではキリっとしているらしいが、自宅ではまったくそのそぶりは見せない。どちらかというと、そういう夜のお店にいてもおかしくない口調だし、ちょっとナヨナヨしている。
私が小学校の時、不慮の事故で母が亡くなり、『パパがママの代わりになるからな……!』と感動的なセリフを吐いていたが、こういう事ではない、と天国にいる母も思っているだろう。