羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。【番外編 2021.5.9 UP】
そんなことを思うと、突然、先輩に抱きしめられる。
「ひゃっ……‼」
(人前(しかもお兄さんの前)ですけどーーーー⁉)
驚いて手を突っぱねると、先輩はそのまま楽しそうに笑って、抱きしめる力を強くした。
先輩の低い笑い声が耳に届いて、恥ずかしいのに、やけに胸がぎゅっとなる。
(先輩のにおいだ……)
そう思ったのが通じているのか、
「みゆのにおい、安心する」
と先輩が耳元で笑った。
その事実がやけに恥ずかしくなって、
「も、もう離してください!」
と叫ぶ。
「ごめん、久しぶりだったから。つい」
先輩が言ってやっと手の力を緩めてくれた。謝る方向が違う、と思うけど本気で怒れない自分がいる。
私は先輩の腕の中から抜け出ると、先輩の方を見た。そのとき、先輩の息が乱れているのに気づいた。
「先輩、もしかして、走ってきたんですか?」
「うん、久しぶりに走った気がする。足、ナマってた」
そう言われてなぜか嬉しく思う。先輩、私に会いたいって思ってくれてたのだろうか。
その嬉しい気持ちを隠すように私は笑い、
「多分、今なら私が勝てますね」
「うーん、それは確かに」
先輩も笑って当たり前みたいに私の髪を撫でた。私は先輩のその笑顔を思わず見つめていた。これまでいろいろとあったせいか、先輩の顔を見て、なんだかすごくほっとしていたのだ。
(私、先輩のいない間、色々あったのは先輩のせいだって、先輩に対して怒っていたはずなんだけどな……)
顔を見てすぐにそれが流されるなんて、不思議だ。これも先輩が彼氏だからだろうか。
そんなことを思っていると、
「ほんと二人、仲いいよね」
と副社長がクスクスと笑う。
(忘れてた! 副社長がいた!)
恥ずかしさのあまり下を向いて手を横に振る。
「そんなことないです! お二人こそ仲いいじゃないですか!」
「まぁ、確かに」
副社長は簡単に認めた。それに先輩がちょっと困ったように笑って、一瞬で場が和んだような気がした。