羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。【番外編 2021.5.9 UP】

 そして私の前に白米をよそった茶碗を渡してくれる。
 どうやら私と父の分らしい。

 そう言えば食器棚にある茶碗は私と父の二人分だけだった。

「……」

 それをじっと見て、私は小さく息を吐く。
 そしてキッチン棚の上にある、箱を取り出した。

 そこには、お客様用の茶碗や皿が入っているのだ。
 それを出して洗うと、無言でお米と味噌汁をよそい、父が用意していた卵焼きと一緒にもう一つの朝ごはんを用意した。

「……食べるならどうぞ」
「え? いいの? ありがとう」
 先輩が心底嬉しそうに笑う。
 すると父は、
「まるで新婚だなぁ」
「ばっ……バカじゃない⁉ 一人だけないのもおかしいからでしょう! ってかそもそも羽柴先輩も朝食狙ってきたくせに!」

 思わず私がそんなことを返すと、「バレた?」と先輩はまた楽しそうに笑う。
 すると、そんな先輩に父は言う。

「あはは、羽柴先生一人暮らしなんでしょ。いつでも食べにおいでよ」
「ありがとうございます。この卵焼き甘しょっぱくておいしいです」
「ふふ、うちの秘伝なんだ。今度作り方教えるよ」
「ぜひ」

(なんで羽柴先輩に秘伝の卵焼きの作り方なんて教えるのよ!)

 っていうか、その卵焼き、秘伝だったんだ……。
 それすら知らなかったわ。

「むぅ……」

 私は膨れると、そのまま無言で食べ終え、歯を磨いて会社に行く準備を素早く済ませる。


「行ってきます!」
「ほら、みゆ。一緒に行こう?」
 先輩が私の手を取ろうとして、私はそれをぱしっと払った。

「絶対に嫌デス!」

(嫌に決まってるでしょう! 一体、なんなのよー!)

 私は家を出て全速力でバス停まで走った。

 今日はやけに朝から疲れた……。あのみんなの王子様は非常に有害だ。
 私はやっと一人になると、心底ほっとしていた。

< 71 / 302 >

この作品をシェア

pagetop