羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。【番外編 2021.5.9 UP】
そして私の前に白米をよそった茶碗を渡してくれる。
どうやら私と父の分らしい。
そう言えば食器棚にある茶碗は私と父の二人分だけだった。
「……」
それをじっと見て、私は小さく息を吐く。
そしてキッチン棚の上にある、箱を取り出した。
そこには、お客様用の茶碗や皿が入っているのだ。
それを出して洗うと、無言でお米と味噌汁をよそい、父が用意していた卵焼きと一緒にもう一つの朝ごはんを用意した。
「……食べるならどうぞ」
「え? いいの? ありがとう」
先輩が心底嬉しそうに笑う。
すると父は、
「まるで新婚だなぁ」
「ばっ……バカじゃない⁉ 一人だけないのもおかしいからでしょう! ってかそもそも羽柴先輩も朝食狙ってきたくせに!」
思わず私がそんなことを返すと、「バレた?」と先輩はまた楽しそうに笑う。
すると、そんな先輩に父は言う。
「あはは、羽柴先生一人暮らしなんでしょ。いつでも食べにおいでよ」
「ありがとうございます。この卵焼き甘しょっぱくておいしいです」
「ふふ、うちの秘伝なんだ。今度作り方教えるよ」
「ぜひ」
(なんで羽柴先輩に秘伝の卵焼きの作り方なんて教えるのよ!)
っていうか、その卵焼き、秘伝だったんだ……。
それすら知らなかったわ。
「むぅ……」
私は膨れると、そのまま無言で食べ終え、歯を磨いて会社に行く準備を素早く済ませる。
「行ってきます!」
「ほら、みゆ。一緒に行こう?」
先輩が私の手を取ろうとして、私はそれをぱしっと払った。
「絶対に嫌デス!」
(嫌に決まってるでしょう! 一体、なんなのよー!)
私は家を出て全速力でバス停まで走った。
今日はやけに朝から疲れた……。あのみんなの王子様は非常に有害だ。
私はやっと一人になると、心底ほっとしていた。