羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。【番外編 2021.5.9 UP】
私の記憶では、父と母はとても仲が良かった。
母が亡くなった時、父は見ていられないほど、悲しみ辛そうにしていたのは印象に残っている。
「……もう20年か」
父は顔を上げてつぶやく。
母が亡くなったのは私が8歳の時。
私が高校に入るくらいまではアルバムを見ながらできるだけ鮮明に思い出していたのだけど、高校生くらいからどんどん写真を見てもぼんやりとしかママのことを思い出せなくなってきていた。最近は、ママの声も鮮明じゃない。
「どんどんママとの思い出が薄くなってきている気がして……怖い」
「ママはそれでいいと思ってるんじゃないかな」
父は意外なことを言う。
「え?」
「過去にとらわれてずっと動けないでいるより、みゆが自分の行きたい方に動いて、好きな人とか、大事なものに囲まれて、もっと大事な思い出をたくさん作ってさ……ママのこと少しずつ鮮明に思い出せなくなっていったとしても……ママはそれがいいって思ってるんじゃないかな。だって全部忘れるわけじゃないんだし」
「……そう、かな」
確かに他のことはいろいろ忘れてきているのに、一つだけ最近やけに思い出すことがある。
普段は、私をはさんでママとパパが手をつないでいたのだけど、その日は確か、パパがママの横にいて、ママと手をつないでた。その時の、恥ずかしくも嬉しそうなママの笑顔だけは最近よく鮮明に思い出すのだ。
「そうだよ。ママは昔から優しかったしなぁ。過去より、今、周りにいる人を大事にしてほしいんじゃないかな」
父はそんなことを言った。「それに、パパがきちんとママのことは鮮明に覚えてるから。大丈夫だよ」
「……うん」
私はふと思う。私はこんな風に、ずっと自分を思ってくれる相手ができるのかな……。
その時思い浮かんだのが、なぜか羽柴先輩の顔だった。