わたしが死んでも、あなたは笑ってくれますか?
今日で何10回目の訪問だろう。
目の下を隈で黒くした彼女は、ぼぅっとする頭で考える。この家を訪問したら、会社に戻って新しい資料を制作しないと、あぁ、でもまだ上司から私に押し付けられた仕事が終わってない。
ピンポン
「はい、中川ですが」
出てきた主婦らしき奥様に向け、営業スマイル。
「こんにちは、〇〇保険です」
「〇〇保険会社では、〜〜プランと〜〜プランがありまして、奥様の未来に備えて〇〇保険に入っておくと将来が安心です。今入って頂くと〇〇もついてきてお得なんですよ、宜しければご入会いかがでしょうか?」
「でも、…旦那に聞かないと、…」
渋る主婦に最後の一手
「資料だけでも、貰って言ってください。私の手作りなんですよ、惹かれるプランがありましたら、是非〇〇保険までお電話ください。奥様にとっての最高を尽くします」
そう言って微笑むと、私は一礼してその家を去った。
プルルル、プルルル
「はぁ……」
世界で1番嫌いな人の名前が表示される
<上司>
『おい、愛松。遅いじゃないか。客は掴めたのか』
「はい、今日は8組ほど新規のお客様に入会して頂きました、すぐそちらに戻ります」
『あぁ、早く戻ってこい。高卒のお前を見てやってる俺をありがたく思えよ。渡した仕事も終わらせるんだ』
「はい、分かりました」
高卒がなんだ。何が悪い。大学行ったら偉いのか。わたしばっかり。あんたの為に仕事をしてる訳じゃないのに。
プチっと電話がきれる。
息をすぅっと吸い込んで、
「電話するくらいなら仕事しろやぁーーグゥえっほ、ゲホッ、ゴホッ…。」
こんな状況の私を雇ってくれたのはここだけで、でも、。
ブラックだ。