まだ、青く。
「オレさ、見てもらいたいんだよ。前に言っただろ?千先輩が好きだって」

「はい。聞きました」


ペットボトルを高く上げてはキャッチを繰り返す兆くん。

本当に心ここに在らずな感じ。

ここまで追い詰められているのは一体どうして?

焦る気持ちとは裏腹に今日の風は穏やかで、ただ夏の日差しだけがジリジリと肌を焦がし、胸を焦がす。


「御手洗千って書いてそれをなぞれば、鈴のすけにはなんとなくでも分かるんだよな?」

「はい。好きな人のオーラとか見た目の特長とか、その人が相手を強く思っていればいるほど、イメージははっきりと輪郭を帯びて私に訴えてきます」

「なら、お願いする。なんとなくでもいいんだ。好きな人がいるいないだけでも、もう...なんだっていい。千先輩のこと、知れればそれでいい。じゃないと、オレ...壊れっちまいそうだから。会えないとさ、その空白、埋めたくなるんだよ」


恋ってそういうものなんだ...。

初めて知った。

初めて生の声を聞いた。

誰かのことを思ってこんなに身を削るなんて。

自分が自分でなくなるくらないに、

人は誰かを想える、ってことなんだ。

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