推しと乙女ゲーム展開になっていいはずがない
『次は渋谷、渋谷…』
車掌の特徴的な声が目的地を告げたところで、私に安堵をくれる。
本当は話がしたい。
こうしてエンカウントした時のことは何千回と妄想してきた。どういうシチュエーションで、どういう言葉をかけて、なんだったら、推しが返す言葉でさえも考えてきた。
電車は間もなくして渋谷駅に到着し、扉が開く。
大勢の乗客が次々に降りていく中、伊澄蒼も席を立った。
声を、絞りだせ。
もう二度とないかもしれないこの機会を逃すな。
何か、言わないと。