推しと乙女ゲーム展開になっていいはずがない


電車を降りた伊澄蒼の背中に向かって、私の声は喉の奥の小さな隙間からこぼれ出た。

「あのっ…」

伊澄蒼が振り向く。

ドクリと人生で1番大きく心臓が波打つ。


「声優の、伊澄蒼さんですよね…」


聞かなくても分かる。
だけどこれが私がずっと練習してきた台詞。

目を合わせることが出来なくて、思わずぎゅっと瞼を閉じる。


「はい。そうです」


さっきのぼそぼそとした声とは違う、いつも聞いている推しの声がした。

伊澄蒼の声に、私の心臓がどくんと大きく反応した。

「あの、私…」

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