狙われてますっ!
 仕事なんですけどっ。
 私たち、取り締まるの、ただ仕事なだけなんですけどっ!

 でもそうか、直接、捕まえたわけじゃなかったから、歌川樹里亜に違反の前科があっても、私との接点は出てこなかったんだっ、
と汐音は気がついた。

 捕まえたのならともかく、通りすがっただけでは記録に名前は残っていない。

「まあ、そろそろ追い詰められる頃かなとは思っていたのよ」
と言う樹里亜に、

 いや、まだなにも追い詰めてなかったんですけど……、と汐音は思っていた。

 疑いの段階で、追い詰めるまでは行っていなかったのだ。

 汐音がなけなしの女の勘で、父母が樹里亜のことを語ったとき、なにかが妙だなと思って、渡真利たちに報告していただけだ。

「……あんたを人質にして逃げようかしら」

 だから、あなたまだ、そこまで追い詰められてません……、
と青ざめ、思ったとき、汐音は気がついた。

 コートで隠してはいたが、樹里亜が折り畳みナイフを持っていることに。

 その切っ先がキラリと光るのを見たとき、汐音は、ぎゃーっ! と叫んでしまっていた。

 ヤクザっぽい人を取り締まって、インネンつけられたりなんてことはよくあるのだが。

 さすがに取り締まりの婦警相手にナイフを出してくるような(やから)は今まで居なかったからだ。
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