狙われてますっ!
「汐音。
そろそろ、俺は出ないといけないんだが」
日曜だが、仕事があるらしく、求はもうスーツに着替えていた。
キッチンに現れた求は、二枚の細長い皿に三つずつ載った不恰好なおむすびを見て、
「相変わらず、美味そうだな」
と笑う。
だが、そのあと、沈黙が訪れた。
「……三種類も作って、偉いぞ~、汐音」
と求は、かなり遅れて言ってきた。
「あ、あの~、加倉井さん。
おにいちゃんが褒めて伸ばせと言ったので、無理やりなにか褒めなければと思ってませんか……?」
「いや、大丈夫だ」
と求は言う。
大丈夫だ、という返し自体、おかしい気がするので。
すでに大丈夫でない感じがしますが……と思う汐音に求は言った。
「大丈夫だ。
今は、ほんとうにお前がなにをやっても凄く見えるし、可愛く見えるから」
……今はな、と言う余計な一言を付け足しながら、求は汐音の小さな頭に手をやると、こめかみに軽く口づけてきた。
……あ、朝からやめてくださいよ。
照れるではないですか、と汐音が俯くと、つられたように求も下を見る。
ふたりの視線が開けかけているインスタントの味噌汁を見た。