狙われてますっ!
 頭の中に蘇ってくる、過去のおのれの声。

『お願いしますよ~、狭間さ~んっ』

『気安く呼ばないでくださいっ。
 駄目ったら、駄目です~っ』
という汐音の声。

 ちょうど自分たちが立っていた雑貨屋の前に、焦茶のフェルト帽が飾ってあった。

 それを汐音の頭にのせて見る。

「あっ、狭間さんっ」

 その帽子で顔が隠れた感じを確認し、間違いないっ、と武志は叫んだ。

「……思い出したましたね」
と言う汐音の声が真後ろから聞こえてきた。

 さっきまで前に居たはずなのにっ。

 帽子もいつの間にか、店先に戻っているっ!

 汐音は背後から、武志の首に腕を回し、軽く締めてきた。
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