彼は友達
気づかないふりはもうやめる
「どうして私がアンタの彼女に殴られなきゃいけないのよ」
そう呟いた後で私はすぐに後悔した。その一言で全てを悟った石川が
今にもキレそうなのがわかる。教室を出て行こうとする石川を『女の
子に手あげちゃダメだよ』となんとか諭して引き止めると、そのまま
床にしゃがみ込んだ。
ホームルームが終わって帰ろうと教室を出たところで、私は石川の
彼女にいきなり頬を叩かれた。
彼女は私の存在が目障りだといった。普段は可愛い子なのにその時は
とても険しい表情をしていて、ああ彼女は本当に石川のことが好きなん
だな、と思った。
石川は私の横に座って、私の左頬に手をあてた。
「赤くなってんじゃん」
大丈夫だよ、と私がいい終わらないうちに石川は携帯を取り出して
どこかにかけ始めた。
「あ、オレ」
彼女だ。名乗らなくても通じる相手は彼女しかいない。そう直感した。
「お前とはもう別れるから。理由?んなもんねーよ、飽きただけ。
じゃあな、二度と電話してくんなよ」
何て言い草。こんなだからトラブルメイカーっていわれるんだよ。そう
いうと、石川は周りにどういわれようと関係ねーよ、と言い放った。
そして携帯の電源を切ってからカバンに放り込むと、私の髪を優しく
撫でながら軽く触れるだけのキスをした。