彼は友達
それからというもの、武田先輩がちょくちょく話しかけてくるように
なった。時々石川がこっちを見ていることも知っていたけど、気持ちが
知れている分私は武田先輩と話すのが楽だった。たぶん石川と一緒に
いるときより私は笑っていたかもしれない。
ある日私は隣りのクラスの男子に呼び出され、正面玄関に向かった。
告白じゃないの、と友達に冷やかされながら歩いていたら武田先輩と
すれ違った。先輩はフーン、と含み笑いをして出て行った。
武田先輩がテニスコートをのぞきに行くと、石川が練習を始めていた。
石川はいつになく不機嫌そうで、練習相手になってくれる人がおらず、
1人でサーブ練習をしていた。
「なんだか荒れてんじゃん、ユウキ」
「武田先輩、俺先輩に聞きたいことあるんスけど」
武田先輩は靴紐を結びなおしながら何?と顔を上げた。
「何で先輩が中島と仲良くなってんスか」
「あー、葵ちゃんね。かわいいよね」
「…っ中島は俺の、」
石川が武田先輩につかみかかる。でも武田先輩は少しも動じず、『俺の、
ナニ?』と笑みさえ浮かべてこう答えた。
「葵ちゃんは誰のものでもないよな?」
正論を返されて黙り込むしかない石川に、武田先輩が追い討ちをかけた。
「そういえばさっき隣のクラスのやつに呼び出されたとかいってたし、
今頃葵ちゃんにも彼氏が出来てるかもね」
「…マジかよ」
部長にはうまく言っといて、と言い残してラケットを放り投げ、石川は
コートを出て走り出した。