片桐兄妹の言うことにゃ
電話口から漏れる声は小さく、誰のものかは判断し難い。鼻に触れられ、痛みに顔を顰めた。
「了解、じゃあ」
男はスマホを切り、ポケットにしまう。
すぐに立ち上がり、背を向けた。
その背中側に描かれたサメの絵が可愛いく、燐は思わず魅入った。
「千治、起きたぞ」
扉の外へ言う。どこかに千治がいるのだろう。
「鼻痛い? 折れてっかなー」
「え」
「とりあえず湿布は貼っといたけど」
男の言葉に、ぞっとする。
鼻 骨折 治療費で頭の中で検索。悲しい哉、片桐家は常に火の車だ。
「どうだ? 生きてるか」
千治の姿が入口に見えた。