【短】好きになったのは、何かが欲しかったからじゃない
高校最後の夏。
ある日、私に突然舞い込んだのは…どうにもしようがない、恋という衝動。
なんだかんだと恋多き高校時代を過ごすのも、これで最後だと思っていたのに…。

夏の日差しのようなねっとりとする熱を孕んだその恋は…学年一真面目で無口なヒトへと向けられたものだった。

同学年…なんの因果か知らないけれど、そのヒトは、私が前に好きになったヤツの親友で、私がそいつを好きなことにいち早く気付いて、然りげ無くフォローをしてくれていた。

だから、失恋した時も何も言わずに放課後、得意のサックスを聴かせてくれたし、何かに躓きそうになった時だって、案外近くで見守っていてくれた。

そんなヒトに恋をするなという方が間違っている。
そう、未だに私は思うんだ。

「やべっちー、あのさー、数学の…」
「………自分で調べろよ」
「むぅ。まだ何も言ってないのにー!」

彼は、1、2年まで一組しかない理系のクラスに所属していた。なのに、3年になって突然文系クラスに飛び込んで来たから、周りからなんの天変地異が起こったのかと騒がれたものだ。
私も理由を聞いたことがある。
その答えは至って彼らしいものだった。

「1つの可能性だけじゃくて、横幅を広げたいと思ったから」

まるでどこかのアスリートのような答えと、彼にしては楽しそうな表情に、私は魅了された。

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