【短】好きになったのは、何かが欲しかったからじゃない
彼は、人の気持ちにとても敏い。
だから、私が彼に向ける好意にもすぐに気付いていたんだろう。

でも、私は恋という駆け引きに慣れて疲れてしまっていて、彼への気持ちはただただピュアなまま、心に宿しておこうかと、そう思っていたのに…。

彼に、想いを寄せている人がいる、ということを知ってしまった時…何と言葉にしたらいいのか分からないくらいの嫉妬に燃えた。
妬き切れそうな想い。
そこに加わる激しくも苦しい鼓動。

私はまだ自分にこんな嫉妬心が残っていたのかと思って深い深い溜息を飲み込む。

それからは、彼の視界に1日何度でも入りたいと思った。
彼の中に自分が少しでも入り込めるように…。
でも、彼が偶に切ない顔をするのが誰のせいなのか、それを痛いくらいに知っている私は、その度にぎゅっと制服のスカートを握り締めて、「好き」だと言う言葉を飲み込むんだ。

そんな中で、周りが自分の進路の話を暴露する時期になり、私は衝撃的な事実を知ることになった。

「え…?関西の大学…って、それほんと…?」
「あぁ。そこでしか学べないことがあるから」

なんで、今まで教えてくれなかったの?とか、こんなに仲良くなったのに、知らなかったのは私だけだったの?とか、私達このまま一緒に付属の大学に行くって話したことなかったっけ?とか…、思いは暗く沈んだ。
それでも、私は無理やり笑顔を作る。

「そっか。頑張れ!やべっちなら行けるよ!」
「おぅ」

離れたくない。
傍にいたい。
なんでいつも、失恋の神様は突然やってくるんだろう?

関東と関西じゃ、どんなに頑張ってもそんなに頻繁には会いに行けないし…大体、私に気持ちのない彼の元に行ったからと言って、私に何が出来るのか。

だけど、私は更に知ってしまう。
彼の行く先に、彼の想い人がいるということを…。

「……ひどいなぁ…」

ぽつん、と零れ落ちた呟きは、涙に濡れていた。
こんな風に好きになるくらいなら、彼の視界になんて入ろうと思わなければよかった。
彼との仲を縮めるようなことをしなれけばよかった。
< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop