蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~


「え、ここでいいんですか?」

 運転手さんは少し驚いた様子でしたが、柚瑠木(ゆるぎ)さんの言う通りすぐに道路脇に車を停車させてくれました。

「ありがとうございます、おつりは結構ですので。さあ、行きますよ月菜(つきな)さん。」

 柚瑠木さんは財布からお札を取り出して運転手さんに渡すと、少し強引に私をタクシーから降ろしてしまいました。普段の柚瑠木さんからは考えられないその行動に、私は戸惑うばかりで。
 早く帰って抱きしめたいと言ったのに、今度はレジデンスに着く前にタクシーを降りてしまう。柚瑠木さんが何を考えているのか分からなくて……

「いいんですか?こんな場所で降りてしまって。」

 この場所からレジデンスまで歩けない距離ではありません。ですがわざわざタクシーを降りる必要があったのでしょうか?
 私の手首を掴んだまま速足で歩く柚瑠木さんに、小走りでついて行くのが精一杯で。

「月菜さんが、場所を考えずあんな事を言うから……」

 場所を考えず……?私はタクシーの中でそんなに変なことを口走ってしまったのでしょうか?確かに柚瑠木さんの事を抱きしめたいとは言ってしまいましたが。

「外に出て頭を冷やさなくては、僕はあのまま貴女を……こんな風に自分を抑えられないなんて、初めてなんです。」


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