蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
「……見つけられますか、私に? 変わることが出来るのでしょうか、私と匡介さんは」
まだ不安そうな杏凛さんの手を香津美さんと一緒に優しく握ります。今なら私の為にたくさん励ましてくれた香津美さんの気持ちも分かります。
「大丈夫よ、私達も最初はゼロから始めたのだから」
「そうです、きっと匡介さんも杏凛さんとの関係をより良いものにしたいと思っているはずです」
小さく頷いた杏凛さんに安心していると、話を終えた様子の柚瑠木さんと聖壱さん……そして匡介さんが歩いてきました。
「杏凛、話は終わったか? そろそろ帰る時間だ。先に車に乗っておいてくれ」
「……はい」
匡介さんに言われて杏凛さんは私達に頭を下げ、一人で店を出ていってしまいました。もう少し話をしたかったのですが、仕方ありません。
「俺達も帰ろうか?」
「ええ、先に失礼するわ。またね、月菜さん」
差し出されて腕に、自分の腕を絡め寄り添うように歩いて行く香津美さんと聖壱さん。とても幸せな雰囲気が伝わってきます。
「あら、柚瑠木さんは……?」
さっきまで一緒に居たはずなのに、そう思っていると匡介さんが私に近寄って来て……
「二階堂なら、今は会計を済ませている。少しだけ君に伝えたいことがあって、彼に頼ませてもらった」
「私に、ですか?」
匡介さんが言いたいことに心当たりがある、私は柚瑠木さんの事が知りたくて彼と交換条件を交わしたのだから。
「近いうちに、君に頼みたいことがある。その時は……」
「はい、分かっています」
匡介さんにも私に頼まなければいけないほど、何か深い理由があるはず。一度交わした約束は守らなければいけません。
彼は静かに頷くと、それ以上は何も言わず店から出ていきました。