蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
「ふふ。言わなくてもわかるだろう、聖壱君。君の大事な奥さんを無傷で返して欲しいのなら……」
狭山《さやま》常務の含んだ言い方に嫌な予感がします。そうなのだと思いたくないのですが、狭山常務が狭山さんに望んでいるものってまさか……
チラリと香津美さんを見ると、彼女も同じことを考えているのか顔を強張らせているように見えます。
「私はね、聖壱君に約束されたSAYAMAカンパニーの次期社長の座をずっと譲ってほしいと思っていたんだよ。」
信じられません!不正取引の証拠を全て渡すだけでは満足できないんですか!それどころか私達を人質を捕って、彼らの弱みに付け込みそんな要求をするなんて……
いいえ、そんなに簡単にいくわけがありません。私達にこんな事をしている人がSAYAMAカンパニーの特別な立場に立てるはずがないのですから!
「聖壱さん!私達は大丈夫よ、こんな人の言う事を聞く必要はないわ!」
香津美さんは怒りのあまりソファーから立ち上がり、狭山常務が持つスマホに向かって叫びました。けれどすぐに周囲に立っていた男女から香津美さんはソファーに押し戻されてしまって……
「おやおや、思っていたよりも元気な奥さんだね。彼女はこう言っているけれど聖壱君はどうする?」
「……眞二叔父さん、データは俺だけが持っている訳じゃない。データの半分は二階堂 柚瑠木に持たせている。」
そんな、まさか聖壱さんだけじゃなく柚瑠木さんも狭山常務たちの不正取引の事を調べて……?そんな事私は何も知らなかったですし、柚瑠木さんに何も話してもらえませんでした。
私は柚瑠木さんに何も信頼もされていない妻だとは分かっているつもりでしたが……
「……なるほどね、じゃあ今度は二階堂君の奥さんに頑張ってもらおうかな?」
そう言うと狭山常務は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、私に向かってテーブルに置いたままになっていたもう一台のスマホを差し出してきました。