蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない~
柚瑠木さんの言葉は、遠慮なく私の胸を抉ります。
まさかそんな風に利用されるためだけの存在だったなんて……だから柚瑠木さんも私にあんなに冷たかったのでしょうか?
確かに柚瑠木さんの言う通り、私には柚瑠木さんの申し込みを断ることは出来ませんでした。たとえ柚瑠木さんにどんな契約内容を言われたとしても、私にはそれを受け入れるしかなかったのです。
ですが、まだ分からないことがあります。
「では、何のためにそんな事を……?」
私が契約結婚を断れない立場だから、柚瑠木さんに選ばれたのは分かりました。そして今日の事件の犯人の狭山常務たちを罠にかけるための囮だという事も。
ではなぜ狭山常務たちを罠にかける必要があったのでしょうか?
「狭山常務はSAYAMAカンパニーと取引のある会社で不正な取引をしていました。僕と聖壱はその証拠を集め、彼に社会的制裁を与えるために……貴女と香津美さんを利用したんです。」
「そう……ですか。」
柚瑠木さんの言葉は勿論ショックでした。けれど、どこかで諦めの気持ちもあったんです。私はこんな事でしか誰かの役には立てない人間なのかもしれない、と。
それでも、どうしてなんでしょうか。ここまでされてもまだ柚瑠木さんのことを嫌いになる事も憎むことも出来ないんです。
彼の私を見下ろす冷たくて悲し気な瞳に、なぜか捕らわれてしまっているような気がしていました。